大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(う)2293号 判決 1977年11月21日

本店所在地

東京都千代田区二番町一一番地一〇

丸協産業株式会社

(右代表者代表取締役 廣瀬敬四郎)

本籍

東京都千代田区二番町一一番地一〇

住居

右同所 麹町山王マンション五〇二号室

会社役員

廣瀬敬四郎

大正一四年一月一八日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、昭和五一年一〇月二二日東京地方裁判所が言い渡した有罪判決に対し、いずれも弁護人から適法な控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官粟田昭雄出席のうえ審理をして、つぎのとおり判決する。

主文

被告人廣瀬敬四郎の本件控訴を棄却する。

原判決中被告会社丸協産業株式会社に関する部分を破棄する。

被告会社丸協産業株式会社を罰金一、〇〇〇万円に処する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人葛西宏安、同小野寺富男共同作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し、当裁判所は、記録を精査し、当審における事実取調の結果をも総合して、つぎのとおり判断する。

所論は、要するに、被告会社丸協産業株式会社(以下単に被告会社という)および被告人廣瀬敬四郎(以下単に被告人廣瀬という)に対する原判決の量刑はいずれも重きに過ぎ不当であるというのである。

被告会社は木材等の輸出入および国内販売を主たる事業内容とした会社であり、被告人廣瀬は昭和四三年に同社を設立して以来同社の代表取締役として同社の業務全般を統轄してきたものであるところ、本件は、被告会社が不況時にそなえて裏資金を確保するとともに預金高を増加させることにより銀行の信用を獲得し信用状の開設わくをふやしてもらうことを企図して、木材輸入に伴う受取手数料の一部を除外して簿外預金を設定する等の方法により所得を秘匿し、虚偽過少の法人税確定申告をなし、昭和四七、同四八年の二事業年度にわたり、合計五、八七〇万三、二〇〇円の法人税を逋脱したという事案であって、逋脱の動機目的、逋脱額、右の所為がもっぱら被告人廣瀬の意思によるものであること等を考慮すると、本件反則調査にあたって被告人廣瀬が積極的に協力したこと、被告人自身深く反省し、今後この種事犯を繰返さないと誓っていること、その他所論指摘の後記有利なまたは同情すべき諸事情を斟酌しても、被告人廣瀬に関しては、原判決程度の量刑はやむをえないところであり、重きに過ぎ不当であるとは認められない。被告人廣瀬に関する論旨は理由がない。

進んで、被告会社について検討するに、本件犯則調査にあたっては、前記のとおり被告人廣瀬はもちろん、その他の被告会社従業員らにおいても収税官吏の調査に積極的に協力してきたこと、被告会社では昭和五〇年以降において、取引先の倒産等により多額の約束手形が不渡りとなり、現在資金的に苦慮していること、本件にかかる法人税、法人事業税、法人都民税をほとんど完納しており、その余の重加算税等についても分納を誓約していること、は原判決も指摘するとおりであり、さらに、原判決後、本件逋脱年度の本税の関係では、昭和四七年度の法人都民税三四五万〇、〇八〇円を納付して本税をすべて完納し、本件逋脱年度以外の各本税については、昭和四五、同四六年度の法人税、法人事業税、法人都民税および昭和四九、同五〇年度の法人事業税、法人都民税をいずれも完納し、その余についても被告会社所有不動産を担保に供するなどして納付の努力を重ねてきているのであって、右の事情を考慮すれば、被告会社に対する原判決の量刑は、現時点においてはいささか重きに過ぎるものといわざるをえない。被告会社に関する論旨は理由がある。

以上のとおりであるから、刑訴法三九六条により被告人廣瀬の本件控訴を棄却し、同法三九七条、三八一条により原判決中被告会社に関する部分を破棄し、同法四〇〇条但書により被告会社に対する被告事件につき、さらに判決する。

原判決が適法に確定した事実に法令を適用すると、原判示第一、第二の事実はいずれも法人税法一六四条一項一五九条一項に該当し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、右罰金額の範囲内で被告会社を罰金一、〇〇〇万円に処することとして、主文のとおり判決する。

昭和五二年一一月二五日

(裁判長裁判官 東徹 裁判官 森真樹 裁判官 中野久利)

控訴趣意書

被告人 丸協産業株式会社

(右代表者代表取締役廣瀬敬四郎)

同 廣瀬敬四郎

右両名に対する法人税法違反被告事件の控訴趣意は次のとおりである。

昭和五二年一月二〇日

弁護人 葛西宏安

同 小野寺富男

東京高等裁判所 御中

原判決は以下の如き被告人らの情状を十分斟酌して居らずその量刑が不当であると思料するので以下これについて述べる。

一、本件犯行の動機

(一) 被告会社は、主として木材等の輸出入及び国内販売を主たる営業目的とする会社である。

一般に木材取引は投機性が高く、且つその取引には多額の資金を必要とするということは一般周知の事実であるが、その輸出入業務たるや更に強度の投機性を有し、その危険負担たるや極めて大きいものである。

現に被告会社も昭和五〇年一一月主要取引先である塩田建設産業株式会社が倒産し、売掛金等合計二億三千万円の貸倒損が発生し、被告人会社自身倒産の危険に瀕した。

右のごとく危険負担の大きい営業の性質上被告人廣瀬敬四郎は同社の代表取締役として設立後日の浅い被告会社の自己資産を出来るだけ増やし、同時にそれに基づいて取引銀行の信用を確保し会社経営の安全性を確保しようとするに至った。

又被告会社は営業規模の急速な拡大に併ない収益力の点はともかく、昭和四三年七月の設立後間もなくであり含み資産が乏しいため銀行の信用を得ることが困難な状態にあり、万一の場合の資金繰りが難しいうえ、商社として被告会社が必要とする信用状開設金約三〇〇ドル中自己のそれは五〇万ドルにしか過ぎず他は他人のそれを使用している状態であったため自己の信用状を開設する必要が大きく、そのためにも自己資金を蓄積し是非とも銀行の信用を得ておく必要があったものである。

(二) 先にのべたごとく昭和五〇年一一月に被告会社の取引先であり西日本最大の木材問屋である塩田建設産業株式会社が倒産した際にはその余波を受け、被告会社は約二億三千万円の貸倒損失を被り経営の危機に直面した際にも思うように取引銀行の援助が得られず資金繰りに苦しみ被告人広瀬敬四郎の投機性に関する危惧の念は具体化したのである。

同人の本件犯行当時の前記予見は正しいものであったことがわかる。そしてその影響は現在にまで及んでおり、結局同人の予見どおり本件犯行による隠匿利益より右倒産者による損害の方が遙かに大きいものであり被告会社はこの苦境に際し被告会社の所有不動産を処分したり、会社従業員を整理し営業規模を縮少したりして目下再建途上にある。

二、本件犯行の全貌が明らかになった経緯

(一) 本件は、被告人廣瀬敬四郎が被告会社の所得金額を虚偽に申告し昭和四七年度分については二〇、八〇七、六〇〇円、昭和四八年度分については三七、八九五、六〇〇円の各々税金を免れたというにある。

しかし、そもそも右脱税額が明らかになったのは、被告人の税務当局に対する全面的協力に負うところが大きい。

即ち、本件逋脱の大きな部分を占めるものは外国会社(シアトル丸協株式会社)との取引に基因する手数料収入であり、重要な証拠である関係帳簿が国外にあるため通常その全貌の解明は極めて困難なものであるが本件においては、被告人廣瀬敬四郎は自からの非を反省し積極的に右帳簿等を右シアトル丸協から取寄せられた国税局に任意提出したためここにようやく被告会社の所得額が明らかになったのである。

(二) また、本件は所謂財産増減法による所得計算方法をとっているが、その計算の根本である被告会社の預金関係についていえば、国税局の被告会社に対する査察部の捜索差押によっても発見把握できなかった預金が存したのであるが、被告人廣瀬敬四郎はそれが被告人らにとって不利なことであるにも拘らず敢て右捜索差押もれのものについても自発的にその存在を国税局に申告しているのであり、その結果被告会社の所得額を約八、〇〇〇万円増加させひいては逋脱額を大きくさせている。

いわば、本件逋脱所得は被告人廣瀬敬四郎の自発的な申告によって計算されたものである。

右被告人の行為は本件犯罪についての極めて重大な情状事実として十分考慮されるべきものと思料する。

三、被告会社の納税状況等

最後に、被告会社の納税状況について一言する。

前記のように被告会社は被告人廣瀬敬四郎がかねて危惧していたとおり他社の倒産による多大の影響を受け現在も資金繰りに苦労しており、経理内容は必ずしも良いとはいえないが、そのような状況の下でも被告会社は本件起訴にかかる昭和四七年、四八年度分の本税については既に約一億一〇〇〇万円を納付し昭和四七年度法人都民税中三、五三三、六四〇円を残すだけで他はすべて納付を完了している。

しかし、この他に重加算税の支払をも考慮にいれると、被告会社が多額の罰金を科されるならばその再建が不可能ともなりかなない事態にある。

四、結語

このように、被告人廣瀬敬四郎は、自己の行為を深く反省したうえ本件を刑事々件として考えるならば、自己防衛の権利を放棄して税務当局に対し全面的協力をし国税局と協力し被告会社の所得内容を判明させ、現在それに基づき課されるにいたった税金の支払に努力し又刑罰を受けようとしている状態である。

また、被告人廣瀬敬四郎は前記のような税務当局に対する行動からみても明らかなとおり真面目で誠実な性格であり一切の犯罪歴もなく再犯の惧れもない。

よって、以上の諸事情を考慮し、特に被告会社の経理内容も充分斟酌しその罰金額は原判決より一層減刑されるよう切望する。

以上

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